自分の知っているバートルビーと―書記バートルビー/メルヴィル法律事務所で雇い入れたばかりの書記のバートルビーは、難しい文書の複写をほとんど休憩もとらないくらい勤勉にかつ正確にやってのけた。ある日所長が、書類の照合を一緒にやってくれないか、と彼に頼むと、「わたくしはしない方がいいと思います」と言って断ってしまった。「どういうつもりなんだ?」「この写しの照合を手伝ってほしいと言ってるだけなんだよ」と言っても、「しないほうがいいと思います」とだけ言って自分の机に引っ込んでしまうのだった。なんか理由があるかもしれないし忙しいからまた今度追求しよう、ということで所長はそれを一旦棚上げにするんだけど、どんな方法で言ってみたところで、バートルビーは「しないほうがいいと思います」と言って他の仕事のすべてを拒...2022.03.13 07:43本
漫画と文学と、どちらでもあるものと―同人誌「ランバーロール02」「ランバーロール」は、漫画家の安永知澄、森泉岳土、おくやまゆかがコアメンバーの漫画と文芸の同人誌だ。2019年5月発行の02号で、0号から数えて通巻3号目となる。これまでの2号もそうだったけれど、漫画誌と文芸誌がミックスされたような本で、けれど読んでいるとやはり漫画のウエイトが重いような気がする。2019.05.08 09:39文学フリマ同人誌小説漫画本
5/6文学フリマ東京(キ-09)に出店します直前の告知ですが、「うさやま書房」として文学フリマ東京に初出店することとなりました。文学フリマ大阪に初出店してから3年経ち、次回製本した冊子も4冊になりました。東京近郊にお住まいの方や、来られる予定にされている方も、ぜひ当ブースにお立ち寄りください。会場:東京流通センター第一展示場 ブース:キ-09時間:11:00-17:00地図など詳細はこちら。2019.05.05 17:05店主日誌同人誌うさぎ式読書日記文学フリマ詩本
世界に「複雑さ」を取り戻すために―「終わりなき日常を生きろ」/宮台真司7月6日、オウム真理教事件関係の死刑囚が、次々と処刑されていくニュースが流れてきた。そして、最終的に7名の死刑が同日に執行された。自分の周りの人たちがそうだったように、このことは、自分をひたすらに重たく辛い気持ちにさせた。この前の北大阪地震の時に本棚が横倒しになって、ついでに読みかけていたり積んでいる本の山も崩れて、意外な本が手前にやってきて、その時に手に取って読み始めていたのが、約20年前、麻原彰晃が逮捕された直後に刊行された宮台真司の「終わりなき日常を生きろ」だった。タイミングがいい、というのはとても嫌な見方だなあと思いながらも、続きを読んだ。この本「終わりなき日常を生きろ」で宮台真司が指摘しているのは、思ったよりもわかりやすい...2018.07.09 05:25評論本
よくわからないまま生きていく「大人」の物語 ―薄闇シルエット/角田光代大人になるということは果たして自由になることなんだろうか、それとも不便でしがらみだらけの世界に生きることなんだろうか。もっと簡単に考えてみると、今やこれからは、昔よりも楽しくて、未来を考えられるような素敵なものになるんだろうか。この小説の主人公ハナは37歳の未婚女性だ。「ちゃんとしてやんなきゃな」と言い出して結婚するつもりの彼氏を見ていて嫌気が差し、婚活をするけれどそれも途中で嫌になる。結婚している妹に、結婚が素晴らしいってどうしてあんたは思えたんだろうね、と何気なく言ったら、馬鹿にすんなよ! って泣きながら言われてしまう。友人と共同経営している古着屋は順調で、でもやりたいことが相方とすれ違っていき、元気のない中で久し振りに彼と会う...2018.01.25 15:52小説本
最近どんな漫画読んでる? 2017/10/29なんとなくやっていたtwitterで、今年から好きな漫画家を見つけ次第フォローしてみようと思って実践していると、段々楽しくなってきた。一日中つぶやいたり絵をアップしたりバズっている話題をその都度リツイートしたりしているツイッター廃人気味のシギサワカヤとか、息子ネタが面白い山名沢湖とか、すごくきれいで雰囲気のある絵を定期的にアップしている丸紅茜(同人誌「map」もすごいから)、あと、一番好きなのはイシデ電のつぶやきだ。 イシデ電のツイートをずっと読んでいるとわかってくることは、飼っている猫の話、作ったみそ汁とかの話、手芸がとても上手いこと、そしてネームがなかなか通らないことだ。いっつも落ち込んでる様子ながら、猫とともに暮らしているリア...2017.10.29 17:05店主日誌漫画本
'17文学フリマ大阪 購入本レビュー4 <ぬばたま 創刊号/ぬばたま>ぬばたま 創刊号/ぬばたま短歌の同人誌。 様々な経歴や所属の15人の歌人(※)が集まって一冊にまとまったもので、面白いのは全員が1996年生まれ(今年21歳)だということ。そのことには読み終えた後に知って驚いた。全ての歌人にはっきりと違うカラーや印象を感じていたからだ。これはもしかしたら、歴史のある結社や同人誌との違いなのかもしれない。あまり短歌には詳しくないけれど、どれを読んでも穂村弘みたいな短歌だけど「いかにも」であんまり面白くない、ってことが、ネットとか同人誌を読んでいたらよくあって、だからちょっと文フリでも立ち読みをして選んだりしていた。「ぬばたま」全体の印象は、外連味は抑え気味で、どちらかと言えば素直に詠んでいるような自分...2017.10.03 19:06短歌同人誌文学フリマ本
'17文学フリマ大阪 購入本レビュー3 <スーパーはなえ/海鮮丼>スーパーはなえ/海鮮丼(ホタテ&Nicola)車に轢かれそうになったところを助けられた男子高校生の秋穂。その命の恩人である青年の後をつけると、あるスーパーのバックヤードに入っていった……。妙なきっかけでスーパーのバイトを始めることになった主人公と、店長はじめスタッフが織りなす賑やかなコメディ。日常系の物語、それもスーパーものってどんなんだろう、って思った。店の仕事が農産とか畜産とかレジとか各セクションに分かれていることとか、店長(副店長)の役割とか、いろいろとスーパーの仕事というものに詳しくて、それだけでも面白い。主人公は初出勤のあと、シフトの関係で次の勤務が5日後になったりして、いちいちリアル。気軽に楽しく読めるし、登場人...2017.10.01 16:33小説同人誌文学フリマ本
'17文学フリマ大阪 購入本レビュー2 <さよならユーリカ/瓜田すいか>さよならユーリカ/瓜田すいかずっと自分の神だと思ってきたバンド「ハロルドセン」の最後のライブに行くことが叶ったあと、もうその音楽が聴けないというやりきれない思いで慣れない酒を飲み、公園でうなだれていたユキ。その姿を見つけたのはその、「ハロルドセン」のボーカル紙島萌だった――。試し読みコーナーで手に取って、装丁とか、雰囲気とかでなんだか面白そうだなあと思って購入した。そうしたら、すごい良かった。最初の1ページを読んだだけで、どれだけ上手いかが分かる。文章自体に読むことを意識させないきれいなリズムがあるから、主人公ユキと紙島の(そしてルームメイトとの)、繊細な心のやり取りが自然に浮かび上がってくる。物語はユキと紙島が出会ってからのほんの...2017.09.26 17:31小説同人誌文学フリマ本
'17文学フリマ大阪 購入本レビュー1 <NEKOPLAなど>9月18日に文学フリマ大阪に行ってきた。そこで、面白そうな本をいくつか買ってきたので、それらの本とか(本以外)について、レビューをしていこうかなと思う(全体的な話は別口で)。ちなみに、各サークルについての予備知識は全くと言っていい程ないので、装丁以外の先入観はほとんど無いんじゃないかな、と思う。2017.09.26 15:30文学フリマ同人誌漫画本
「異性がわからない問題」を解きほぐす言葉 ―異性/角田光代・穂村弘往復書簡のようなこの本は、まず角田光代が恋愛に関する自分の見解を語り、それを受けて穂村弘が自分の見解を返していく、という形で交互に書かれるエッセイがどんどん転がっていく。例えば、どうして男がブランデーグラスを片手に高層ビルの上から「くくくくく、俺の街」とか言い出すのかといえば、男性はそうやって口に出すことで全てを「俺のもの」という認識にしてしまうことができて、それによって所有感を満たしているのではないか。サッカーチームのオーナーでもないのに「俺のチーム」とか言ってメンバーを考えだしたりするように、と穂村が書く。それじゃあ髪を切った時に「あ、短いの、似合うね」って言うのは、そのことを「俺のもの」にしようとして無意識に発言しているだけな...2017.05.08 20:54本