漫画と文学と、どちらでもあるものと―同人誌「ランバーロール02」

「ランバーロール」は、漫画家の安永知澄、森泉岳土、おくやまゆかがコアメンバーの漫画と文芸の同人誌だ。2019年5月発行の02号で、0号から数えて通巻3号目となる。

これまでの2号もそうだったけれど、漫画誌と文芸誌がミックスされたような本で、けれど読んでいるとやはり漫画のウエイトが重いような気がする。


小説の方で一番面白かったのは、小山田浩子の「土手の実」だった。

土手に生えていたよく分からない木の実を持って帰って舐めてみる、という話で、最初はとにかくずっと描写が続く詰まった文体だなあと思い、でもすぐに惹き込まれていく。木の実の味がどうだったのか、という地味な部分がクライマックスなのだけど、どういうわけか読んでいてとても興奮してしまった。こういうの好きだなあと思った。語りそのもので面白いんだから、ラストのエピソードはいらないような気はした。

朝倉宏景の「空き家」は空き家に住みついた男に退去を迫りに行く家主の女性の話。力関係が逆転していく感じが面白いけれど、ちょっと短かった。

姫乃たまの「好き」は甘い話なのに不用意なところが全然なくてちょっと意外なほどだった。相手を好きになる部分って、こういったところなのかもしれないな、っていう説得力がとてもあって良かった。でも、逆に男が読んだらそれを都合よく解釈しないだろうか、なんて危うさを感じたりはした。


漫画でいうと、ゲストとして「少女のスカートはよくゆれる」が発売されて話題になっている岡藤真依が招かれていてすごいなと思った。「夢見る人」は失恋した漫画家というメタな短編なんだけど、そこにも作者らしい、表出しない、透明な鋭さを感じた。

奥田亜紀子の「留守」は、高野文子のような雰囲気を漂わせながらも、なにか新鮮さも覚えるような、小学生の少女が田舎の家で留守番をする物語だ。こういった作品を読むと、これまで薄く感じていた、「同世代」の雰囲気がこの同人誌に横たわっているのではないか、という思いを、改めて感じざるを得ない。あの頃の小学生がみんな「星の瞳のシルエット」に熱中していて、自分もその一人だったなあって、そんなことも思った。

森泉岳土の「毒」は3号目にして初めてのエッセイではない創作。

テーマはひとり残された不倫旅行という特段珍しいものじゃないんだけど、徐々に現実との境界線が曖昧になっていくところからが面白く、絵から伝わってくるものがものすごく強い。あと、ラストも良かったなあ。

おくやまゆかは毎回全然毛色の違う作品を載せていて面白いんだけど(0号の「しおりしっとり」は大好き)、今回の「長七郎と女」は怠け者の男のところにねずみが嫁入りする、という時代がかった不思議な話。おとぎ話的になりそうなものを、かわいくて楽しくてトボケてて情もあって、っていう絶妙なコントロールで読ませる。

そして、今回の「ランバーロール02」を通じて一番すごかったのは安永知澄の「夏の光」だった。

卒業して電車で町を出る女の子が、これまでの高校生活を振り返る、という形で様々なエピソードを点描する。入学したばかりの失敗、部室での男子との息苦しい会話、恋愛なのかも分からない気持ち。主人公は一重まぶたで前髪がまっすぐ切られ、決して可愛くは描かれない。それは他のほとんどの高校生も同じだ。それでもお互いに好きになったり、どうでもいい話で盛り上がったり、ほめたりほめられたりして嬉しかったり、そんなことが起こっていく日々があった。

大人になってから些細になったものたちが、あの頃どれだけシリアスで、苦しさを伴っていたのかが、暴力的とも言える強さで描かれていく。作中にはただ普通の高校生活があるだけなのに、読んでいる自分の記憶とそれらは結びつき、とてつもない痛みを感じるような漫画なのだ。

これまでの2号に安永知澄は「海ちゃんへの手紙」を連作で掲載していたので、違った作品が載ったことも意外だった。そして、この本を開いた時にまず読むだろうこの読み切りに、ほとんどの人がガツンとやられるんじゃないかと思う。


0号から読んできて思うのは、漫画の強さに対して、小説はどちらかといえばひと休み的な感じに思えて、それは文芸誌とは力関係が逆転してて面白いなと思う一方で、(紙幅のこともあるだろうけど)漫画に拮抗するような作品がもっと読みたいと思う。

そんな強さを持った作品は、今号で言えば小山田浩子の「土手の実」だったり、0号に掲載された滝口悠生の「温み」などだと思った。

今後この同人誌で、様々なジャンルの作品が遠近で重なり合い、ひとつの雰囲気が紙面で作り上げられていくとしたらすごいことだろうなと思う。

「ランバーロール」はこれまで主にコミティアや文学フリマなどの即売会場や、独立系の書店などで取り扱いされてきた。

そして、今号からはタバブックス発行となり、Amazonでも購入できるようになっている。(うさやま)


ランバーロール02 / ランバーロール編集部(安永知澄 森泉岳土 おくやまゆか)

タバブックス 1200円+税

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