さよならユーリカ/瓜田すいか
ずっと自分の神だと思ってきたバンド「ハロルドセン」の最後のライブに行くことが叶ったあと、もうその音楽が聴けないというやりきれない思いで慣れない酒を飲み、公園でうなだれていたユキ。
その姿を見つけたのはその、「ハロルドセン」のボーカル紙島萌だった――。
試し読みコーナーで手に取って、装丁とか、雰囲気とかでなんだか面白そうだなあと思って購入した。
そうしたら、すごい良かった。
最初の1ページを読んだだけで、どれだけ上手いかが分かる。文章自体に読むことを意識させないきれいなリズムがあるから、主人公ユキと紙島の(そしてルームメイトとの)、繊細な心のやり取りが自然に浮かび上がってくる。
物語はユキと紙島が出会ってからのほんの短い間の話で、登場人物もほぼ3人しか現れないミニマムな構成だ。けれど窮屈にならず、緩やかな緊張感を作り出している。
BL小説です、と言って売っていたことを全然忘れながら読んだんだけど、これは、いったいどうなんだろうか。なんと言えばいいんだろう。
この小説は、どうしてあなたは僕の前に現れて、そして僕の心をこんなにかき乱そうとするんですか、といった思いが互いに交錯する、そんな時間に関する物語だ。
紙島とユキ、ユキとルームメイトの橘川のそれぞれの関係が孕んでいる、優しさを超えそうになるようなドキドキとした空気や、最後にどうして紙島はユキのことをああやって呼んだんだろうとか、そんなことを考えると、ある意味具体的な何かが起きる以上だなあって、読んで思ったのだった。
おすすめ。
(つづく)
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