自負も、卑屈さも、全部漫画にする ―メートル/斉所

バイトをしながら創作漫画を書き続けながら、なかなかプロに手が届かないキヨと、商業漫画家として活躍している紫の日々の物語が、主にキヨの視線から描かれる。
嫌になって、諦めて、でもこれしかないと思って描き続ける。 卑屈になって他人に辛く当たり、飲んだくれてまた落ち込む。いつまでこんなことやってるんだろうって思う。
この漫画は笑えたりもしながら、でもどこかにいつも緊張感を孕んでいるのだ。
オリジナル作品の即売会に出店し、そこでやっている出張編集部に持ち込みをして、励まされたと思ったらそのあと突き放されてしまう。映画を観て面白かったのに強い嫉妬を感じてしまう。親の寝顔を見ていたら涙が止まらなくなる。
そんな全てのエピソードが読み手に刺さりまくるのは本当にすごい。
でも、もっとすごいのは、この同人誌が漫画としてとても繊細で、とても面白いってことなのだ。

そのうちに作者自身と主人公キヨとが頭の中で混同されていって、そこになぜか自分の思いまでもが流れ込んでいくようになってくる。
そして、読んでいてなにか、とても息苦しい。
この、どこにもないような息苦しさを作り出したのは、紛れもなく作者の才能なのだ。

メートル(同人誌/Kindle版) / 斉所 

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