twitterで漫画家やイラストレーターをフォローしているのだけど、いつも楽しみにしている投稿がいくつかあるけれど、その中でも特に好きなのが日記漫画だ。
東京に引っ越した木村いこが「#東京にすむ日記」をアップし始めた。関西人の木村が夫とともに初めて住む東京の日々が、スケッチブックに綴られていく。戸惑うことも多いけど、ごはん食べて家でゆっくり過ごせれたら大丈夫、というところがいい。
「おにでか!」の矢寺圭太がたまにアップしている日記もとても楽しい。友達が泊まりに来たとか古いラーメン食べた話とか、そんななんてことない話なんだけど、なにかが起こったからみんな聞いて、な感じじゃ全然ない普通さと、独り身のほの哀しさが残る最後の終わらせ方が、本当に絶妙で好きなのだ。
哀しいといえば、さいとう林子が去年の11月から連載している日常BL「アオベニの生活(#アオベニ)」が、いま大変なことになっている。
最初は年の差カップルのなんてことない同棲話が続いているなあと思ってタイムラインで読んでいたんだけど、異変が起こったのは30話を迎える頃だった。2人での生活が、あることで突然終わってしまったのだ。
ちょっとびっくりして過去の話を改めて全部読み返すと、思った以上に2人の生活は、ほのぼのといったものよりももっと、脆く儚い中で続いていたことが分かって、とても切ない気持ちになった。
漫画の最後にかならず「生活はつづく……」という決まり文句が添えられているのだけれど、こういったことも含めて、想像以上に深く構想された連載だったことに気がつく。
現在時点で「アオベニ」は37話まで進んでいるけれど、アオくんは一体どうなってしまうんだろうと思う。どこから始まってどこに辿り着いていくんだろう。
漫画の自由さ、ということで言うと、ある漫画編集者が、ネット漫画についてつぶやいていた。
同人誌で創造的な作品を生み出している作者が、声がかかって連載することになったとき、どうしてあんな小さくまとまったような漫画になってしまうんだろうと。
それを読んで、僕はすぐ、COMICポラリスで連載が始まった「おくたまのまじょ」を連想してしまった。
作者の丸紅茜は自らの同人誌「丸紅アパートメンツプレス(map)」などによって、日常SF的な世界を、陰影を操るイラストレーションや漫画で発表してきた実力のある作家だ。その作者の商業誌初掲載作品がその後に連載化になったものが「おくたまのまじょ」だった。
奥多摩の田舎で生まれ育った魔女の女性が、慣れない都会で魔法修業をするという日常コメディなのだけど、その状況も出てくるキャラクターも魅力的なのに、設定やストーリーを慎重になぞっているような気がして、とても物足りなかった。
作者の同人誌map05号の「上海は月の影」は紀行エッセイとしても、なにより漫画としてとても素敵だった。新しい世界が広がっていくようなイラストの気持ちよさが漫画と一緒になったとき、こんなに面白くなるんだと思った。この連載でもそんな世界をもっと見たい。
そして、今連載しているweb漫画の中では花椿で週刊連載している「ダルちゃん」が一番好きだ。
私たちは日々社会の中でそれなりに生きているけれど、でも本当はどんな形をしているんだろうっていう感じの漫画だ。
主人公の丸山成美は外ではちゃんとした派遣社員のようだけど、家ではアメーバみたいに体の形までダルダルになってしまうダルダル星人のダルちゃんだ。
誰でも家に帰ったらダルダル星人だよねー、というところからそうやって連載は始まったんだけど、この「ダルダルさ」の意味はもっと、社会で他人との関係を繰り返す中で見つめることになる自分自身の得体のしれなさ、みたいな部分にまで徐々に近づいていく。
物語は主に会社の中で起きることで、あさはかな対抗心から同僚の男と付き合おうとしてひどい目にあって傷ついて、そのことを遠くから見ていた先輩女性サトウさんの詩集のようなさびしくて優しい気持ちに触れることになったりする。そんなとき、事務方にヒロセくんというこれまたさびしくて優しそうな男性が異動してくるのだけど……っていう話だ。
少し前からtwitter上では、漫画に編集者は必要なのかという議論がある。
さっき書いた同人作家が商業誌で連載になると小さくなってしまう、というつぶやきの文脈は、編集者の介在が意識されたものでもあると思うし、実際そういった声も漫画家を含めて多い。
でもこの「ダルちゃん」や、その前に連載されていた今日マチ子の「もものききかじり」なんかは、読者層や全編を貫く主題がとても的確でブレることがなく、なんていうかど真ん中に面白い漫画で、なんらかのコントロールがちゃんとされているのだと思った。
「ダルちゃん」も、第1話からメイクをすることを「擬態」だと言ってしまうような懐深さが許される中で(だって資生堂の広報誌なのに!)、ありふれているけれどいちばん大事な、自分は何者なんだろうっていう問題を読者と一緒に考えているような気がする。(う)
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