往復書簡のようなこの本は、まず角田光代が恋愛に関する自分の見解を語り、それを受けて穂村弘が自分の見解を返していく、という形で交互に書かれるエッセイがどんどん転がっていく。
例えば、どうして男がブランデーグラスを片手に高層ビルの上から「くくくくく、俺の街」とか言い出すのかといえば、男性はそうやって口に出すことで全てを「俺のもの」という認識にしてしまうことができて、それによって所有感を満たしているのではないか。サッカーチームのオーナーでもないのに「俺のチーム」とか言ってメンバーを考えだしたりするように、と穂村が書く。
それじゃあ髪を切った時に「あ、短いの、似合うね」って言うのは、そのことを「俺のもの」にしようとして無意識に発言しているだけなのに、それを女性はぜんぜん違うように捉えてしまい、舞い上がってたのか、と角田が返す。
といったやり取りだ。
恋愛の話って、自分が巻き込まれているかとか、どこから光を当てるかとかによって、全く話が変わってくる。
話すといつもぐだぐだと水掛け論になってしまって、でもまあ楽しいんだけど、という恋愛に関するこんがらがった認識を2人が、(モテなかった)経験と、言葉の力で解きほぐしていくのは見事。
このエッセイが書かれていたのが大体、穂村弘が49歳、角田光代が44歳の頃。
お互いにそれまでの経験をたくさん思い出しながら書いているのだけれど、読んでいる方も色々なことを思い出す。
でも、それと同時に今現在起こっている恋愛や、それ以外でも起こりうる「異性」のことがわからないという問題に対して、とても有効な1冊のような気がする。(う)
異性 (河出文庫) / 角田光代・穂村弘
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