なんでもなく、そして特別な夜 ―夜さんぽ/木村いこ

運動不足と不安障害を和らげるために、同居人と始めた夜の散歩のエッセイ。
何も起きないし、変わったものを発見するわけでもない。
ただ、いつもの風景を見て、また、それが変わっていくのを見る。
街灯のまぶしさ、猫よけのペットボトル、カエルの鳴き声や自販機のスコール。 そんな、本当に何気ないものも、夜の散歩の中ではとても大事なものになる。

主人公いこまんは、話す関西弁も、辛そうにしていたり、いきなり怒り出したり、駄々こねたり、思いつきで動き出したりするところとかも、ドキドキするくらいそうそうこんな感じ! っていうキャラクターで、そこがとっても魅力的だ。
そして、気持ちや感覚の変化に戸惑ったり、いきなり起こる主人公の行動を横で見守りながら、心配したり、なだめたりしつつマッサージとかしてあげたりっていう彼氏にも、ものすごいシンパシーを感じる。ほんと、こんな感じなんだよなあって。
どう変わっていくかわからない彼女に心配しながらも距離感はとっても難しい。そんな気持ちもなんとなく理解できるから、こんなに単調に思えそうな話が、なぜかスリリングな雰囲気さえも醸し出す。

今でも深夜、静かな場所を一人で歩いていて感じる気持ちがあって、それは、昔からずっと変わらない。
そんななにもないのに特別で、なぜか緊張感もあって、っていう空気は、かつてあったことも、今のことも、そんないろいろをもう一度新しく再生させることができるような気持ちにさせてくれる。
そんな思いで吸い込む夜の空気が、この一冊の「夜さんぽ」の中に、いっぱい封じ込まれているんだなあと思う。
夜さんぽ(リュウ・コミックス) / 木村いこ

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