息苦しくて、優しい再会 ―映画「ムーンライト」

物語は主人公シャロンの少年期から始まる。

いじめっ子に追いかけられて逃げ込んだ廃墟で、優しい売人の男フアンに出会う。麻薬に溺れながら売春で生計を立てる母と暮らすシャロンは、唯一の友人ケヴィン以外には他人に心を開かずほとんど喋ろうとしなかった。そんなシャロンに対して、フアンとその恋人が、少しずつ優しさを与えていく。

そしてシャロンは高校生になり、クラスではゲイだということをからかわれ、母は麻薬への依存が進んでいく。

ある日、やりきれずに家に帰れないシャロンは、夜の街を当てどなく歩き、海岸の堤防に座っていると、ケヴィンが偶然やってきた。

月明かりが照らす海辺で、少しずつ二人は話を続け、そして思いが一瞬重なり合う。

それから時は経ち、かつてのフアンと同じように売人になってしまったシャロンの元に電話がある。それは、あの日、そしてその次の日に起こった事件のあと一度も会うことのなかったケヴィンからだった。

「ムーンライト」は、トレーラーや事前にちょっと聞きかじっていた雰囲気とは違っていた。
もっと分かりやすくて、お涙頂戴な話だと思っていたのだ。

この映画は、何か大きな事件に向かって進んでいくような映画じゃない。でも、だからこそ人生の中で起こった小さいけど忘れられないような出来事たちが、どれだけ大切なものかを思い知らされる。

主人公シャロンと友人ケヴィンとの、拙くて、危うくて、そして果てしなく優しい会話にそんな全てが含まれているから、本当に息苦しくなる。

観ている時よりも、観終わった後に幾つものエピソードを思い出し、そしてぼんやりと考える、そんな映画だ。

そのことって、僕らの人生みたいなものでもあるなあって思った。(う)


「ムーンライト」公式サイト:http://moonlight-movie.jp/

(2017年日本公開/ファントム・フィルム)

※写真は公式サイトより



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