うさぎ式読書日記220523

木曜日は用事があって半日の勤務だったんだけど、帰り際に上司が申し訳無さそうに声をかけてきた。

ちょっといい? と言われてそこら辺にある椅子に座った。

机の上にノートが置いてあるのが目につきふと見ると、表紙にテプラの一番太い36mmの緑色のテープで「うさ山さん申し送りノート」と印字されたものが大きく貼られていた。

上司が「うさ山くんは復帰してきたけどまだ休み休みやろ、色々と休みのときに電話とか来てて……まあちょっと他の人が聞いても分からんような問い合わせとか正直結構あるみたいでな……なんか最近もあれどうなってんねんっていう連絡が他の部署から何度も来てたらしくて。なんかあったんやって? パソコン撤去してくれとかそんなんが」

「はい」

「それで、このノートに申し送りとかを他の人が書き込んで、うさ山くんが出勤したときに必ず見るってことにしたいって話やねんけど……どうかな」

「いや、そもそも自分が行き届いてないことが原因だと思うんで、自分に拒否権はないので」

「ごめんな……俺だって人のこと言えた立場じゃないねんけど、そうしてほしいっていう声があったんで……」

と言いながら、上司はノートを持ってページをめくったり手遊びながら言いにくそうに話すのだった。

その話を聞きながら、なんでメモとか付箋とか社内用のチャットツールとかがあるのに、そこをちゃんと見ろとか活用しようという話じゃなくて、こんな絶望的にダサい、表紙にテプラで名指しされているようなノートを用意されたんだろうと思った。

まあ、自分がそれらをちゃんと確認したりできてないからなんだけども、と思った。

それを見ながら、まるでこれが自分がバカで至らない人間だってことを具現化したもののような気がした。

上司が続けて、「このノート、どこに置いとくのがいい?」と聞いたので、課内の人全員が持っているお知らせの印刷物などを入れる引き出しの、自分のところはどうかと言った。

そうしたら上司はまた言いにくそうにして、「そうかあ、なんかうさ山くんの机の上が目立つからいいかなって話になってるらしいねんけど……うーん……まあそこでいいか……」と言うのだった。

たぶん上司以外の課内の他の人達が話し合って計画して、上司に決めた通り話せと言ったってことなんだろうなと思った。

自分が使うノートなのに置く場所も決められないのか、と思ったり、なんでみんなが目につく場所に「うさ山はバカです」って表紙に書いたようなものを自分だけ置かなくちゃいけないんだとか思った。

上司と話している椅子のすぐ横に、ペダル式のゴミ箱があった。そのゴミ箱の縁には「ゴミ箱のフタは静かに閉めてください!」というダサい黄色のテプラが貼り付けてあった。

ある同僚が何回か乱暴にフタを閉めたことがあって、ある日突然貼られたのだった。

これとおんなじだ、と思って暗い気持ちになった。

もし忘れたり連絡ミスがないようにするのだったら、本人を含めてまず相談するものだと思う。

お互いに業務が円滑にいくように考えようよ、と。

でもこのことだって、本人の預かり知らない間にそこら辺のノートにテプラの名前入りシールを貼って、一番目立つ場所に置いてあいつに書かせるようにしようよと自分以外の部署の人達で決められて、それを直接言って来ずに上司を通じて命令させたってことだった。

僕は職場でほとんどの人に自分がADHDだと言っていなくて、ただいい加減で困ったやつだと認識されていることはわかっていて、そうやって依頼されたことを取りこぼしたり忘れたりして同僚に迷惑をかけているのも事実だった。

ただ、どぎつい色で自分の名前が印字されたテープが貼られた乱暴なノートそのものが、自分のどうしようもない無能さを具現化して見せつけられているようなものに感じて、ただその場で深く絶望してしまったのだった。つらいなあ、と。


たかがノート1冊のことで、と思われるんだろうな、というのは今書いている日記もそうだし職場の他の人に対してもそうで、なんかまだメンタルが弱ってるからなあとか思ったりもするし、でも、家に帰ってからもずっとそのことを考えていて、業務的には自分は間違っているかもしれないけど、ただどうしたって自分が傷ついたという事実だけは残るんじゃないかって思った。

その「れんらくちょう」みたいなノートを使うにせよ、自分の気持ちだけはなんらか伝えたいと思った。


その日の次の出勤日だった今日に、「言われた仕事を忘れてしまうのは完全に自分のせいなのでノートはやりますが、ちょっと傷ついた気持ちになったのは事実なのでそれだけは伝えておきます」と言った。

そうしたら上司は、「それならやめとこ。やめようやめよう」と言って、そのノートは使わないことになった。

他の同僚にも伝えられたらしく、それから気まずい気持ちになり、あまり同僚たちのいる部屋には行かなかった。

なんか、疲れてるのかな、とずっと思っている。こんなつまらないことで、と。

でも、なんだかわからないけど嫌な気持ちになった、というところはどうしても代えがたかったし、ということをまあ、まだ考えている。

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